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マタニティハラスメントの裁判事例5選!企業法務が気をつけるべきポイントとは?

マタニティハラスメントとは、妊娠や出産、育児休業の取得に際して、嫌がらせや不当な扱いを受けることを意味します。今回の記事では、マタニティハラスメントの裁判事例を5つご紹介し、マタニティハラスメントと認定されないように企業法務が気をつけるべきポイントを解説します。

妊娠中および育休後の降格が争点となった裁判事例

本件裁判の争点

本件は、広島市の医療施設で働いていた女性が、妊娠を機に副主任から降格となり、育休後も副主任の役職に戻されなかった問題です。

裁判では、男女雇用機会均等法の第9条「妊娠や出産したことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」に反しているかが争点となりました。

参考:マタハラ降格に賠償命令、女性が逆転勝訴 日本経済新聞

判決結果

最高裁は、「互いの同意や業務上の特殊な理由がある場合を除き、妊娠を理由とした降格は原則禁止」と述べ、医療施設側の男女雇用機会均等法の違反を認めました。

その後広島高裁で行われた差し戻し控訴審では、女性の負った精神的苦痛による慰謝料を含む約175万円の賠償金を支払うよう医療機関に命じました。

この事例からわかる企業法務が気をつけるべきポイント

今回の事例では、男女雇用機会均等法に違反していたために、雇用側の医療機関は敗訴となりました。女性の出産や結婚を機に、解雇はもちろん降格などの不当な取り扱いをしないように努める必要があります。

参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第9条

育休明けの解雇の是非が争点となった裁判事例

本件裁判の争点

本件は、ドイツ科学誌出版社の日本法人に勤務していた女性が、育休後に職場復帰を申請したところ、インドへの転勤または収入が大幅に下がる職務のいずれかを選択するように迫られ、どちらの選択肢も断った結果解雇された問題です。

裁判では、育児介護休業法第10条「労働者が育児休業申出をし、または育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」に反しているかが争点となりました。

参考:育休明け「インドに転勤するか…」解雇無効の判決 朝日新聞デジタル

判決結果

東京地裁は、企業側が育休法や男女雇用機会均等法に反していると判断し、女性の解雇を無効とし、慰謝料55万円と未払い賃金の支払いを命じました。

この事例からわかる企業法務が気をつけるべきポイント

育児介護休業法の規定があるため、女性の妊娠中のみならず育休後の解雇や降格等の不当な取り扱いも認められません。

とくに、東京高裁の吉田裁判官が述べている通り、解雇理由に妊娠・出産を明示していなくても育休法違反が認められることもあるので注意が必要です。

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第10条

育児休業の取得後に正社員から契約社員に契約変更されたことが争点となった裁判事例

本件裁判の争点

本件は、語学スクール運営会社のジャパンビジネスラボ(JBL)に勤めていた女性が、育児休業の取得後に契約社員へと契約変更された問題です。また、契約社員としての雇い止めがあった点もマタニティハラスメントであると女性は主張しました。

参考:マタハラ裁判、高裁が下した衝撃判決の中身 東洋経済ONLINE

判決結果

驚くべきことに、他の裁判事例とは異なり、正社員へと戻る要求や損害賠償金の要求が棄却された上に、雇用側の行なった契約社員の雇い止めが認められる結果となりました。

つまり、マタニティハラスメントはなかったという裁判結果となり、女性側が全面的に敗訴となったわけです。女性側が敗訴となった背景には、下記の要因があります。

この事例からわかる企業法務が気をつけるべきポイント

本件の裁判事例では、企業側の事情や女性の行なっていた信頼を損ねる行為などを理由に、マタニティハラスメントが認められませんでした。

しかし、女性が積極的にマタハラ企業であると印象付けていたことで、ブラック企業大賞にノミネートされるなど、数々の被害を受けています。

企業法務部門は、法律の違反の有無のみならず、対外的なイメージダウンにも対処する必要があると言えます。

妊娠によって無給休職にされたことが争点となった裁判事例

本件裁判の争点

本件は、日本航空の客室乗務員として働いていた女性が、妊娠を機に地上での勤務を希望したにも関わらず、無給で休職させられた問題です。 本件でも、男女雇用機会均等法に反しているかが争点となりました。

参考:妊娠中、希望者は地上勤務 日航マタハラ訴訟が和解 日本経済新聞

判決結果

東京地裁によって行われた裁判の結果、女性と日本航空の間で和解が成立しました。休職は無効となり、女性は一定の未払い賃金を受け取ることとなりました。また和解条項には、希望すれば原則全員が出産前に上勤務に就けることが盛り込まれました。

この事例からわかる企業法務が気をつけるべきポイント

ここまでの事例でわかる通り、妊娠を理由に無給休職という不利益な扱いを行なった点は明らかに男女雇用機会均等法に反しています。

企業の法務部門には、マタニティハラスメントであると認定されないように、本人の希望を聞いて軽微な仕事を任せるなどの対応が求められます。

妊娠中に仕事を軽くしてもらうことを拒否されたことが争点となった裁判事例

本件裁判の争点

本件は、介護職員として働く女性が妊娠を契機に業務を軽くしてもらうように求めたところ、断られた問題です。

とくに本件では、男女雇用機会均等法に加えて、雇用企業の所長が「妊婦として扱うつもりはない」などと発言したことが、労働基準法に違反している可能性も争点となりました。

参考:女性が働きやすい企業のはずが…マタハラ認定、賠償命令 朝日新聞デジタル

判決結果

福岡地裁で行われた裁判の結果、女性側の訴えを一部認め、企業と元所長に対して35万円の支払いを命じました。

この事例からわかる企業法務が気をつけるべきポイント

この裁判事例からわかるのは、解雇や休職、降格などの明確な扱いのみならず、妊婦の人格権を侵害するような発言も違法となる可能性がある点です。

企業法務部門には、職場にて妊婦に対してこのような発言が起きないように注意喚起を図ることが求められるでしょう。

マタニティハラスメントの裁判事例5選:まとめ

5つの裁判事例からわかるように、妊娠や育休取得を理由にこれまでと異なる扱いを行うと、マタニティハラスメントであると認定される可能性が非常に高いです。

また、妊娠や出産に対する配慮を欠いた場合でもマタニティハラスメントと認定される可能性があります。

そのため、不当な取り扱いを行わないのは当然として、最大限妊娠した女性に対しては配慮を心がけることが、企業法務の観点では重要となります。

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