新型コロナ・ウイルスの拡大により、いわゆる3密を避けるべき要請が強まっています。そのような中で、まさしく3密の環境となってしまいかねない株主総会を従来通りに開催してよいのかは、法務・総務にとって難しい問題です。
特に例年5月、6月に定時株主総会を開催していることの多い3月期決算企業は、まさに今、対応に苦慮しているのではないでしょうか。
また、仮にこのコロナ禍が終息したとしても、今後ほかの感染症が流行するおそれもあります。さらに、災害大国ニッポンにおいては大規模災害の被害に見舞われたなかで株主総会の開催を迫られる可能性もないとはいえません。
これから起こり得る未曽有の事態にそなえ、様々な株主総会の開催方法を想定しておく必要があります。
通常通りの開催でコロナ感染リスクを減らす方法はないか
株主総会は、密閉・密集・密接のいわゆる3密状態となってしまいかねません。そのような感染リスクの高い環境を緩和しつつ、通常の開催方法・時期を守りながら取りうる対策としては
- 株主席同士の間隔を従来より広めにとる(2メートル以上が望ましい)
- 株主総会のお土産を廃止する。お土産の手渡し・受け渡しによるウイルス感染を防止する
- 株主席一つ一つに番号を振り、株主総会後に株主に体調不良が生じた場合は、その番号とともに企業側に連絡をいただけるようお願いする
などの対策が考えられます。しかし、人と人との接触が生じる以上、感染リスクを減らすことはできても、完全になくすことまではできないとも考えられます。
新型コロナ・ウイルス対策のための定時株主総会延期はできるか
定時株主総会は決算後3ケ月以内に開催する会社が多いといえますが、必ず決算後3ケ月以内に開催しなければならないわけではありません。
法律上は、「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。」と規定されています(会社法第296条第1項)。
したがって、例えば、3月期決算企業が新型コロナ・ウイルスへの対応策として定時株主総会を7月に延期したとしても直ちに違法とはいえません。
定款で定時株主総会の開催時期を定めている場合
定款において定時株主総会の開催時期を定めている企業に関しても、「天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではない」という見解が法務省から出されています。
したがって
「新型コロナ・ウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りる」
法務省HP「定時株主総会について」
といえます。
人と人とが直接集まらずに株主総会を行う方法はないか
株主総会・書面決議という方法
書面決議とは、リアルの「場所」に集まって株主総会を開催しなくても、書面または電磁的記録による株主全員の同意があれば、株主総会決議があったとみなされるというものです(会社法第319条第1項)。ただし、株主が多い会社の場合など、こういった要件を充たすことは難しい場合も多いでしょう。
ハイブリッド型のバーチャル株主総会という方法
①従来のように役員等や株主が物理的な「場所」に集まって株主総会を開催し、株主にそこでのリアルの参加・出席を認めつつ(リアル株主総会)、それに加えて②オンライン等での参加・出席も可能とする、いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会という方法があります。
①のリアル株主総会の開催と②の手段を併せて行うこの方法については、現行法上、適法と解釈されています。経済産業省は、2020年2月26日に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を公表しています。
ハイブリッド型バーチャル株主総会の方法を採用することにより、一部の株主には遠隔地からオンラインで参加してもらい、リアルの開催「場所」に集まる人数を少しでも減らすことができれば、株主総会会場での感染拡大を防ぐ一助となります。
バーチャルオンリー型株主総会は可能か
コロナ対策をさらに一歩進めるため、物理的な「場所」に集まるリアル株主総会を開催せず、役員等と株主がすべてオンラインで株主総会に出席する、いわゆるバーチャルオンリー型株主総会は、可能でしょうか。結論から申し上げますと、バーチャルオンリー型株主総会は、
現行の会社法下においては「解釈上難しい面があるとの見解」
第 197 回国会 法務委員会 第 2 号(平成 30 年 11 月 13 日))
が示されています。
現行の会社法では、株主総会の招集手続に際しては株主総会の「場所」を定めて行わなければならないと規定されているためです(会社法298条1項)。
法務のwithコロナ。どうする株主総会:まとめ
コロナ禍を契機として、株主総会について従来の開催方法以外にも様々な開催方法が検討・実施され始めています。
欧米においても、オンラインのみによる完全バーチャルオンリーの株主総会を望む声が高まりをみせています。ドイツでは、2020年に開催される株主総会に限るものの、ネット配信のみの株主総会を認める法案が議会を通過しました。
こうした流れを受けて、株主総会を含む法務業務全般についてのオンライン化、ひいてはデジタル化が一層進んでいくことは想像に難くありません。
また、オンライン化、デジタル化を推し進めることは、コロナ禍を乗り越えるだけでなく、法務部全体の業務効率化にもつながります。
何が起こるかわらかない世界情勢の中で、あらゆる事態に対応できる法務部となるため、法務のデジタルトランスフォーメーションはもはや必須といえるでしょう。