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角川歴彦会長の東京五輪汚職逮捕はなぜ?贈賄の法的問題を徹底解説

KADOKAWAの角川歴彦会長が、9月14日、贈賄の容疑で逮捕され話題となりました。そして、ついに東京地検特捜部は10月4日に角川元会長を贈賄の容疑で起訴しました。この起訴を重く受けて、角川氏は同日に会長職を辞任しました。

AOKIの不祥事など不正の温床と化した東京オリンピックですが、今回のKADOKAWAの事件はどのような点が法律上問題となったのでしょうか。

不祥事の詳細

角川元会長は、顧問ら2名とともに、大会組織委員会元理事の高橋治之氏に対して、KADOKAWAを大会のスポンサーに指名するように依頼しました。この依頼に関して、KADOKAWAは、スポンサー選定の謝礼として、コモンズ2という会社に合計7600万円を支払い、コモンズ2は高橋元理事にこの金額を支払ったという疑いがもたれています。

そして、この一連の事件について、東京地検特捜部は、角川元会長と顧問ら2名を贈賄罪の容疑で、高橋理事とコモンズ2の社長を受託収賄罪の容疑で逮捕しました。

賄賂の罪の概要

そもそも賄賂の罪とはどのようなもので、今回の一連のお金の動きはどこが問題になったのでしょうか。

刑法での賄賂とは?

簡単にいうと、贈賄とは公務員に対して賄賂を送ること(またはその要求、約束をすること)、収賄とは公務員が賄賂を受け取ること(またはその要求、約束をすること)を指します。そして、高橋元理事の逮捕理由である受託収賄とは、公務員がなにかをすることを約束したうえで収賄することをいいます。

「賄賂の罪に関する詳しい解説」

角川元会長らのお金のやり取りは賄賂に当たるか?

角川元会長らは、KADOKAWAという会社からコモンズ2という会社に7600万円を送金したとされています。一見すると直接高橋元理事にお金を渡すことはしていません。さらに、コンサルティング費用としてKADOKAWAからコモンズ2に送金されています。

しかし、刑法では、他の人から間接的に賄賂を受け取った場合でも、賄賂を受け取った事実に変わりはないので罰されることになります。また、直接的に「賄賂」という名目でなくとも処罰の対象になります。第三者を介したり送金の名目をごまかしたりすることは賄賂の罪ではよくある手法になります。

したがって、角川元会長らは、会社を介して公務員である高橋元理事に賄賂を渡している疑いがあるため、贈賄にあたります。

本件の高橋元理事は、公務員であり、KADOKAWAをスポンサーに選定することを約束したうえで賄賂を受け取った疑いがあるため、受託収賄に当たります。コモンズ2は賄賂を贈ったわけでもないようにみえますが、高橋元理事と共謀した以上、コモンズ2の社長は共同正犯として、高橋元理事と同様に罰せられます。

「賄賂と認識していなかった」という角川元会長の否認は?

角川元会長は賄賂とは認識していなかったとして容疑を否認しています。「知らなかったで済むの?」と思う方は多いかもしれません。

実は、もし本当に賄賂だと認識していなかった場合には、角川元会長は無罪になります。刑法では、故意犯を処罰するという原則があります。

刑法38条1項
「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」

この条文によると、「過失でも処罰します」という特別の規定がない場合には、故意があるときしか処罰されないことになります。賄賂の罪には特別の規定がないため、故意犯のみが処罰の対象になります。したがって、角川元会長が賄賂と認識していなかった場合には無罪になります。

なお、一部報道では、角川元会長は社内の弁護士に賄賂に当たる可能性を指摘されたため、支払いの名目をコンサルティング費用に変更したとされており、これが事実ならば故意が認められる可能性が高いといえるでしょう。

賄賂の一部は時効でおとがめなしに?

2019年9月から2021年1月にかけて、KADOKAWAからコモンズ2に合計7600万円が送金されていたにもかかわらず、東京地検特捜部は6900万円分しか起訴していません。この金額のズレの理由は、時効という刑事訴訟法の制度にあります。

まず、贈賄罪の刑罰を確認してみましょう。

刑法198条
「第百九十七条から第百九十七条の四までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。」

このように3年以下の懲役又は250万円以下の罰金が刑罰として定められています。

次に、刑事訴訟法の時効の規定を確認します。

刑事訴訟法250条1項
「時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。(略)」
刑事訴訟法250条2項
「時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 死刑に当たる罪については二十五年
二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七 拘留又は科料に当たる罪については一年」

贈賄罪は、人を死亡させた罪ではないため、刑事訴訟法250条2項によって時効期間が定められています。贈賄罪の懲役刑は最大3年であるため、250条2項6号より時効期間は3年となります。

さらに、時効の期間の求め方は次のように定められています。

刑事訴訟法254条1項
「時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。」
刑事訴訟法254条2項
「共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。」

この規定より、時効期間が経過する前に、犯人または共犯者を起訴することで時効期間が停止します。今回の事件では、角川会長が2022年10月4日に、共犯者であるKADOKAWAの顧問ら2名が2022年9月27日に起訴されています。

そうすると、時効期間の進行は2022年9月27日に停止しているため、2019年9月27日以前の罪については時効が成立してしまうことになります。

これらの事情を踏まえて、東京地検特捜部は7600万円のうち時効が完成した700万円分は起訴をせず、残りの6900万円分に限って起訴をしたことになります。

なお、刑事事件の時効と民法上の時効は別物なので注意しましょう。

「民事の時効の解説」

今後の動き

 今後については、外部の専門家を中心とするガバナンス検証委員会を設置し、贈賄事案の原因解明と再発防止策の提言を行い、監査等委員会とともにコンプライアンスの順守とガバナンスの改善を進めるとしています。

東京五輪に関する不祥事

東京オリンピックに関する不祥事の報道は後を絶ちません。大会組織委員会会長の女性蔑視発言、エンブレムの盗作疑惑などもありました。そして、今回は賄賂の疑惑が出ていますが、実は賄賂の疑惑は他にもありました。

高橋元理事はAOKIからも賄賂をもらっていた

今回、角川元会長から賄賂を受け取ったとされる高橋元理事は、9月6日に紳士服メーカーのAOKIからも東京五輪に関して賄賂を受け取っていたとして起訴されています。

今回の事件と合わせて、判決の行方が気になる事件となっています。

まとめ

日本を代表する大企業による賄賂事件は非常に大きな注目を浴びています。さらに、2030年には冬季オリンピックを札幌に招致することも考えられています。

今回の事件の判決などを通じて東京オリンピックの実態を明らかにすることで、次の冬季オリンピックの招致に向けて前向きな一歩を踏み出すことを期待しましょう。

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