LegalSearch (リーガルサーチ)

NHKも特集した アップル VS 1人の日本人の特許裁判から学ぶ知財の守り方

巨大IT企業と個人発明家による「iPod特許侵害訴訟」

世界中に強い影響を与えている巨大IT企業・Apple。スマートフォンのiPhoneをはじめ、タブレットのiPad、パーソナルコンピューターのMacintoshなど、Appleの製品はいずれも高度な特許技術や意匠などの知的財産で構成されています。

今回取り上げるのは、かつてAppleを代表するプロダクトとして一世を風靡した「iPod」をめぐる特許訴訟です。

巨大IT企業と個人発明家による「iPod特許侵害訴訟」

iPodというのはAppleが発売している携帯音楽プレーヤーの名前です。初代iPodが登場したのは2001年10月で、その後iPod mini、iPod shuffle、iPod nano、iPod touchなど多くのiPodファミリーが生み出されました。中でも特に画期的な操作性で人気を集めたのが、2004年1月に米国で発売されたiPod miniです。しかしこの製品はその後、ある日本人発明家の特許を侵害したとして訴訟の対象となりました。

Appleを訴えたのは齋藤憲彦氏という人物です。訴訟の理由は、iPod miniに採用された「クリックホイール」という技術が、斎藤氏による「リング上に配置された入力デバイスとその中心に位置するスイッチ」の特許を侵害するというものでした。

裁判で直接の原告となったのは斎藤氏の会社で、被告となったのはAppleの日本法人です。それでも裁判は「個人の発明家 vs 世界的な巨大IT企業」として注目を集め、斎藤氏が勝訴した際には、メディアから「ジャパニーズドリーム」という声まで聞かれました。

裁判所の判断と関係者の反応

東京地方裁判所で訴訟が提起されたのは2007年3月です。判決が言い渡されたのは2013年9月26日で、その後2014年4月24日に知財高裁で控訴審の判決が言い渡されました。それぞれの判決文はLegalSearchからも検索できます(「東京地方裁判所 平成19(ワ)2525 平成25年9月26日」および「知的財産高等裁判所 平成25(ネ)10086 平成26年4月24日」)

実は訴訟の提起までには、特許をめぐる紆余曲折がありました。斎藤氏による特許出願は1998年に行われましたが、審査料の払込みを保留したため特許自体が成立していなかったのです。斎藤氏は技術を携帯電話メーカーなどに技術を売り込んだものの採用されず、初代iPodを発売したApple社との交渉も物別れに終わりました。

その後iPod miniの発売を受け、斎藤氏側は出願中の特許をあらためて分割出願、2006年9月に特許が成立し、翌年3月には100億円の損害賠償を求めて訴えが起こされました。

裁判ではApple側が特許の無効を主張し、裁判所も当初は和解を勧めたものの、斎藤氏側は「特許の訂正」でこれに対抗。結果として斎藤氏の勝訴となりました。ちなみに、この際に認定された賠償金額は約3億円です。その後斎藤氏とAppleの双方が知財高裁に控訴しましたが、控訴審判決とその後の最高裁判決でも、一審の判決が支持されました。

大企業・Appleが個人に敗訴したことは画期的な出来事でしたが、一方で3億円という金額には疑問の声も上がっています。斎藤氏自信も記者会見で「権利が認められたことには感謝しているが、金額には満足がいかない」と述べ、その後のNHKの番組出演でも、アメリカで同様の裁判が起こされれば100億円の賠償金額が取れたはずという考えを明かにしました。

グローバル社会で知的財産を守る3つの教訓

「iPod特許侵害訴訟」から企業や個人が学べる教訓には、3つのポイントがあります。

まず一つ目は、特許出願後の審査請求を確実に行うことです。斎藤氏は当初、資金に余裕がないことから「技術が採用されるまで審査請求しない」と判断しました。しかし結果として、これがAppleとの訴訟の一因になったと考えられます。

二つ目は、国際特許の取得です。斎藤氏の特許はあくまで日本国内のもので、裁判も日本国内のみで行われました。もし海外の特許があれば複数の国で訴訟を提起でき、結果として高額な賠償金を獲得できただけでなく、日本国内の裁判でも海外の水準に合った高額な賠償金を認められたかもしれません。

三つ目は、知財に強い専門家とタッグを組むことです。裁判での斎藤氏の勝因のひとつに「特許の訂正」がありますが、特許の訂正にはさまざまな要件があり、裁判で有利となる訂正を行うには豊富な知識と経験が欠かせません。もちろん特許出願時点から専門家のアドバイスを受けていれば、訴訟自体を避けられた可能性もあるでしょう。

グローバルな巨大企業に対して、中小企業や個人が知的財産を争うケースは今後も十分に起こり得ます。大切な権利を守っていくためにも、しっかりした知財戦略を持って行動するよう心がけていきましょう。

モバイルバージョンを終了