フロン排出抑制(フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律)の法改正が行われ、2020年4月1日より施行されました。
これによって、業務用のエアコンや冷凍冷蔵機器等を廃棄する際にフロン類を回収しなかった場合、機器の管理者に対し即座に罰金が科せられることになりました。
対象となる機器は、飲食店、オフィス、ショッピングモール、街頭、トラック、電車、工場、船舶など、様々なところで使用されており、関係者も多数存在します。
そこで、罰金が科せられることのないように、「改正フロン排出抑制法」と、その「罰金対象」などについて詳しく解説します。
「フロン類」に含まれる化合物
フロン排出抑制法が対象とする「フロン類」とは、フルオロカーボン(フッ素と炭素の化合物)の総称で、次の3つの化合物を指しています。
- CFC (クロロフルオロカーボン)
- HCFC (ハイドロクロロフルオロカーボン)
- HFC (ハイドロフルオロカーボン)
フロン類は、不燃性で化学的にはきわめて安定で人体への毒性が低いことから、エアコンや冷蔵庫などの冷媒、半導体や精密部品の洗浄剤、断熱材等の発泡剤、エアゾールなど、さまざまな用途に使用されています。
オゾン層を破壊する「特定フロン」
大気中のオゾンは、約10~50km上空の成層圏に約90%存在しており、この層をオゾン層といいます。オゾンは有害な紫外線を吸収し、地上の生態系を保護するとともに、地球の気候の形成に大きく関わっています。
「フロン類」のうち前項で説明した、分子中に塩素を持つCFCとHCFCは「特定フロン」と呼ばれ、大気中に放出されるとオゾン層まで到達して破壊します。
【 世界気象機関/国連環境計画オゾン層破壊の科学アセスメント2018 】に
よると、各国のオゾン層破壊物質の排出抑制努力により、オゾン層の回復は始まっているが、オゾン層の破壊が顕著になる前のレベルにまで回復するのは、2060年代と予想されており、今後も継続的な排出抑制が求められています。
強い温室効果がある「代替フロン」
分子中に塩素をもたない HFCは「代替フロン」と呼ばれ、CFCやHCFC の代替として転換が進められてきました。
しかし、HFCはオゾン層を破壊することは有りませんが、「特定フロン」と同様に強い温室効果があり、そのレベルは二酸化炭素の数10倍から10,000倍以上あります。
区 分 | 化合物 | オゾン層破壊 | 温室効果 |
特定フロン | CFC、HCFC | 有り | 大 |
代替フロン | HFC | 無し | 大 |
以上の理由で、オゾン層の破壊を防ぎ地球温暖化を食い止めるには、「特定フロン」及び「代替フロン」の排出抑制が必要なのです。
フロン排出抑制法とは
フロン排出規制の法整備は、2001年に制定された「フロン回収・破壊法※」に始まります。
※正式には「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律」
この法律によって、業務用冷凍空調機器の整備時・廃棄時のフロン類の回収、回収されたフロン類の破壊等が推進されました。
2013年6月には、「フロン回収・破壊法」を「フロン排出抑制法※」(2015年4月1日施行)に改め、フロン類の製造から廃棄までのライフサイクル全体にわたる包括的な対策が取られるよう法整備しました。
※正式には「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」
「改正フロン排出抑制法」の概要
2015年に「フロン排出抑制法」を施行しても、フロン類の廃棄時回収率が10年以上の間4割弱と低迷していたため、2019年6月に「フロン排出抑制法」が改正され、2020年4月1日に施行されました。
改正の目的は、関係者が相互に確認・連携し、ユーザーが機器を廃棄する際には確実にフロン類の回収を実施することで、以下が主な改正ポイントとなります。
製造業者の対策強化
- フロン類の製造業者及び輸入事業者に対し、フロン類の低GWP※化・フロン類以外の代替、フロン類の回収・破壊・再生への取組みを求める。
※GWPとは「地球温暖化係数」のことで、二酸化炭素を基準にして、ほかの温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるか表した数字のことです。 - 機器製品メーカーに対し、ノンフロン・低GWP化の目標値・目標年度を定め、目標達成を求める制度を導入。
機器管理者(所有者等)の冷媒管理徹底
- 適切な場所への設置を徹底。
- 各種点検の徹底。
- 漏洩防措置の徹底、故障機器は修理完了まで原則フロン類の充填を禁止。
- 点検等の履歴保存の徹底。
機器廃棄の際の取り組み
- フロン類を回収せずに機器を廃棄したユーザーには、即座に50万円以下の罰金を科す。(従来は、指導→勧告→命令を経てから、法令に従わない場合に罰則が適用された)
- 廃棄物・リサイクル業者等に対し、フロン回収済み証明の交付を義務付ける。
建物解体時の機器廃棄の際の取組
- 解体工事を発注したユーザーに対し、解体業者等が作成した対象機器の有無の確認記録保存を義務付ける。
機器が引き取られる際の取組
- フロン類の回収が確認されない機器を引き取った廃棄物・リサイクル業者に対し、即座に50万円以下の罰金を科す。
詳しくは、環境省のホームページ をご参照ください。
フロン排出抑制法の対象となる「第一種特定製品」
ここまで「機器」と記載してきましたが、フロン排出抑制法の対象となる機器は正式には「第一種特定製品」と言い、冷媒としてフロン類が使用されている業務用冷凍空調機器を指します。
< 第一種特定製品の事例 >
飲食店 | ・室外機及び室内機からなるパッケージエアコン ・業務用冷凍冷蔵庫 ・製氷機 ・すしネタケース ・ビールサーバー |
オフィス | ・ビル用マルチエアコン ・パッケージエアコン ・飲用冷水機 ・ビル空調用ターボ冷凍機 ・スクリュー冷凍機 |
スーパー | ・ガスヒートポンプエアコン ・保管用冷凍冷蔵ユニット ・パッケージエアコン ・冷凍冷蔵ショーケース |
街頭 | ・パッケージエアコン ・スポットエアコン ・自動販売機 ・飲用冷水機 ・運送用冷凍冷蔵ユニット ・運送機用エアコン |
工場・船舶など | ・パッケージエアコン ・ヒートポンプ式給湯器 |
家庭用機器やカーエアコンは、対象に含まれる?
フロン排出抑制法の対象となる「第一種特定製品」は業務用なので、家庭用冷蔵庫や家庭用ルームエアコンなどは含まれず、業務用の冷凍空調機器であっても冷媒がフロン類でない製品の場合も含まれません。
また、フロン類を使用するカーエアコン(輸送用冷凍冷蔵ユニットを除く)は、自動車リサイクル法に基づき、フロン類の回収等が行われるためフロン排出抑制法の対象外となります。
2020年の改正フロン排出抑制法とは:まとめ
フロン排出抑制法の改正の施行によって、廃棄時にフロンの回収を怠ると即時罰金となりますので、ビルオーナー、オフィスの所有者、飲食店やスーパーなどの経営者、及び工場や船舶の所有者などは、所有・管理している機器が「第一種特定製品」に該当するかどうかを事前に確認しておく必要があります。
「第一種特定製品」に該当するかどうかを調べる方法は、①室外機の銘板やシールを確認する、②機器のメーカーや販売店に問い合わせる、の2つです。
オゾン層を守り、地球の温暖化を防ぐために、各企業の担当者は「改正フロン排出抑制法」を正しく理解し、責任ある行動をとりましょう。