本記事は3月24日の「Googleはなぜターゲティング広告の開発をやめるのか」の続編になります。
欧米を中心とした個人情報の保護強化の流れに対し、Googleは2019年1月14日に個人の行動を追跡する「サードパーティCookie(クッキー)」のサポートを2022年度中に終了すると発表し、その代わりに「Privacy Sandbox」という個人が特定できない仕組みを提案。
「FLoC」とは、「Privacy Sandbox」を実現させるための機器学習アルゴリズムのことで、Googleは3月30日に試験運転をスタートすると発表しました。これに対し、広告業界からは本当にCookieを使ったターゲティング広告と同様の売上が得られるのか、あるいは、他のプロバイダーからは以前よりもユーザーのプライバシーを侵害するのではないか、などの懸念も出てきています。
そこで、今回は「FLoC」とはどのようなシステムなのか、メリットや懸念されている問題点などについて詳しく解説します。
サードパーティCookie※廃止の流れ
欧米を中心としたサードパーティCookie廃止の流れを整理すると、次のようになります。
- 2017年AppleはサードパーティCookieによるユーザーの追跡を防止する「ITP(Intelligent Tracking Prevention)」を導入
- 2018年欧州連合(EU)でデータ保護規制「GDPR(General Data Protection Regulation)」が施行される
- 2019年 米国Googleが自社の公式ブラウザ「Google Chrome」でサードパーティCookie(クッキー)のサポートを2022年までに終了すると発表
- 2020年 米国カリフォルニア州でカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA:California Consumer Privacy Act)が施行される
- 同年 日本で「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」を公布
※サードパーティCookieはユーザーが訪問しているサイトのバナー広告などをクリックした時に発行され、サイト横断的にユーザーを追跡して情報を収集し、サードパーティが管理する広告サーバに送る働きをします。
この流れに対してパソコンやスマートフォンなどのブラウザーで6割以上のシェアを持つGoogleが出した答えが、「Privacy Sandbox」と呼ばれるユーザーのプライバシー保護とトラッキング広告を両立させる新しい仕組みです。
Privacy Sandboxとは?
Privacy Sandboxは、ユーザーのブラウジング※データを広告サーバに送らず各デバイスのブラウザ内で保存し、個人を特定できないようにして必要な情報だけをデジタル広告企業やアドテク企業に公開しターゲティング広告を可能にします。
※ブラウザとは、Google Chrome、Internet Explorer、Safari、Microsoft Edgeのようにウェブサイトを閲覧するためのソフトですが、そのブラウザを利用してウェブページを閲覧することを「ブラウジング」と言います。
Privacy Sandboxがカバーするターゲティング広告
ターゲティング広告には以下のようにいくつかの種類があります。
- オーディエンス ターゲティング(ユーザーの属性や興味・関心に基づき配信)
- コンテンツ ターゲティング(コンテンツのテーマに関連する広告を配信)
- 位置情報 ターゲティング(ユーザーの位置データに合わせて広告を配信)
- デバイス ターゲティング(使用しているデバイスに特化した広告を配信)
- リターゲティング(購入に至らなかった商品の広告を再度配信)
この中で、主にオーディエンス ターゲティングに対応するのが「FLoC」と呼ばれる手法です。
FLoC(Federated Learning of Cohorts)とは
FLoCとは、日本語では「コホートの連合学習」と訳され、GoogleがサードパーティCookieに代わるターゲティング広告の手段として提案しているものです。これによって「個人」ベースのターゲティング広告から「コホート」ベースのターゲティング広告に移行することが可能と言われています。
Cohort(コホート)
コホートは「群れ」を意味する言葉で、興味や関心を同じくするユーザーをグループ化したものです。1つのCohortには数千人のユーザーが含まれており、個人が特定できないようになっています。
Federated Learning(連合学習)
連合学習は、2000年代初期からGoogleやMicrosoftなどを中心に研究されていたAIの機械学習の1つで、データを1ヶ所に集約せず個々のデバイスに分散したままで機械学習を行う手法です。
大量のデータをAIが機械学習し分析する場合、従来の手法では各デバイスが持っているデータを1ヶ所に集めてから学習するため、データ量が膨大となり時間がかかり処理に対する負荷が大きなものとなります。
これに対し連合学習では、各デバイスで学習・分析した結果のみをサーバに送り、サーバが処理した結果を再び各デバイスにフィードバックするので、個々のデータはデバイスから流出することはなくデータ処理の効率も向上するメリットがあります。
FLoCの仕組み
公開されている情報では、FLoCの主な流れは次のようになります。
- 各デバイスに「機械学習アルゴリズム」を配布し、ローカル(各デバイス)でユーザーのブラウジング行動を分析する。
- ユーザーを関心や興味などが共通する数千人のユーザーから構成されるコホートに振り分ける。この時、ユーザーのブラウジングデータはサーバとは共有しないため、個人はコホート(群れ)の中に隠され特定できない。
- ブラウザはコホートIDのみを公開し、デジタル広告企業やアドテク企業はコホート IDを使ってターゲティング広告を行う。
- 時間が経過しユーザーのブラウジングデータが更新されると、振り分けられるコホートも変化する。
Google Ads&Commerceによると、FLoCのテストではCookieベースの広告と比較した場合、広告費1ドルあたりのコンバージョンレート※は95%以上を期待できることが示されています。
※Conversion(コンバージョン)とは、ウェブマーケティングでは「成果」を意味します。Conversion Rate(コンバージョンレート)は、サイトの訪問者が成果に結びついた割合のことで「成約率」とも言われます。
Cookieと違う、Googleが開発するFLoCとは?/まとめ
FLoCは、ターゲティング広告を「個人」から「コホート」に切り替える役割を担っており、個人データの流出を防止するGoogleの画期的な試みです。
しかし、「Privacy Sandbox」という構想や「FLoC」が各国の個人情報保護に関する法規制をクリアできるかどうかはまだ分かっていません。
また、FLoCの機械学習アルゴリズムによるユーザーのクラスタリングが、いかなる差別もなく実施できるのか、個人情報が本当に流出しないのかなどの懸念を持つブラウザや、広告売上の低下を心配するウェブ広告分野の企業も少なくはありません。
さらには、アドテクのリーダー的存在のThe Trade Deskが開発したサードパーティCookieに代わる「Unified ID 2.0」の動向も注目されています。
今後も、「Privacy Sandbox」と「Unified ID 2.0」の展開、及び各国の法令判断からはしばらく目が離せません。