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裁量労働制とは?メリットやデメリットを徹底解説

裁量労働制

2021年7月、厚生労働省が裁量労働制のあり方を議論する検討会を開催しました。今回の記事では、近年議論の的となっている裁量労働制についてわかりやすく解説します。

裁量労働制とは?

裁量労働制とは、事前に定めた一定の時間を労働時間とする制度です。

裁量労働制の仕組み

裁量労働制の仕組みには、大きく2つの特徴があります。

まず1つ目は、実際に働く時間に関係なく、1日あたりの労働時間が定められている点です。たとえば8時間を労働時間として設定されている場合、1時間しか働かなくても、反対に14時間働いたとしても、8時間労働した扱いとなり、それに準じて給与などが支払われます。

2つ目は、勤務時間帯が決められていない点です。裁量労働制では、出勤・退勤時間が設定されません。そのため、従業員は自身の都合に合わせて働く時間を決定します。

裁量労働制の種類

裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

専門業務型裁量労働制とは、業務遂行の方法や時間配分などを労働者の裁量に委ねる必要性が高い業務に適用される制度です。具体的には、弁護士や公認会計士などの士業、コピーライター、デザイナー、新製品の研究開発などの職種・業務が適用対象となります。

一方で企画業務型裁量労働制とは、事業運営における重要な意思決定を行う労働者を対象とした制度です。具体的には、企画や立案、調査、分析などの業務を行う職種・業務に適用されます。

※参考
専門業務型裁量労働制 厚生労働省
企画業務型裁量労働制 厚生労働省

フレックスタイム制度や事業場外みなし労働時間制との違い

裁量労働制と近い仕組みとして、「フレックスタイム制度」や「事業場外みなし労働時間制」などがあります。

フレックスタイム制度とは、会社が定めた時間内であれば、始業時間・就業時間を自由に選ぶことができる制度です。労働時間を自由に決定できる裁量労働制とは異なり、フレックスタイム制度では始業・終業時間のみを決定できる点に違いがあります。そのため、フレックスタイム制度では、所定の労働時間はかならず働かなくてはいけません。

事業場外みなし労働時間制とは、使用者の指揮監督が及ばないために、労働時間の算出が困難である業務について、特定の時間だけ働いたと見なすことができる制度です。職種が限定されている裁量労働制とは異なり、職種による制限は設けられていません。また、労働者への裁量も与えられていません。

裁量労働制を導入するメリット

裁量労働制の導入により、企業は下記3つのメリットを得られます。

生産性や業務のクオリティが向上する

専門的な業務や企画などの業務は、決められた時間内に終わらせようと思うと、納得できるクオリティの成果物が生まれなかったり、勤務時間が過度に多くなって生産性が低下したりするリスクがあります。

一方で好きな時間だけ働けるようにすれば、「良いアイデアが出るまで働く」とか「早く仕事が終わったから、すぐに帰って明日以降に備える」といったことが可能となります。その結果、仕事の生産性やクオリティが向上する効果が期待できます。

労務管理の負担を軽減できる

裁量労働制を導入すれば、対象となる従業員の労働時間が一定となります。残業代を計算する手間が省けるため、労務管理の負担を大幅に減らすことができます。

人件費を予測しやすくなる

前述したとおり、裁量労働制では残業代が原則発生しません(一部例外あり)。事前にみなし労働時間と社員数から人件費の概算合計額を計算できるため、予算や利益の予測もしやすくなります。

裁量労働制を導入するデメリット

一方で裁量労働制の導入では、以下に挙げた2つのデメリットに注意が必要です。

導入に多大な手間がかかる

裁量労働制を新たに導入するには、「労使委員会の設置」や「労使委員会のルール決定」などの手続きを行う必要があります。具体的には、みなし労働時間や業務の範囲などの複数項目を話し合いによって決定しなくてはいけません。

また、決定した内容については労働基準監督署に提出する必要があります。

以上のとおり、裁量労働制を導入する際には多大な手間を要します。リソースが不足している企業や本業が忙しい企業にとっては、大きな障壁となるでしょう。

長時間労働の温床となるリスクがある

実現困難なノルマや目標を設定すると、裁量労働制の対象社員は長時間働かざるを得なくなります。その結果、慢性的に長時間労働が行われるようになり、社員の健康が損なわれるリスクがあります。

勤怠管理の徹底や労働時間に見合うノルマ・目標を設定し、長時間労働を防ぐことが大切です。

まとめ

裁量労働制は、生産性向上や労務管理の負担軽減など、メリットの多い制度です。しかし一方で、導入に手間がかかる点や長時間労働の温床となりやすい点など、いくつか注意すべきデメリットもあります。

政府には、現状の課題を克服した新たな裁量労働制の実現が期待されます。

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