離婚後の子どもの親権について法制審議会の部会が民法改正のたたき台を示しました。
現在の民法では、離婚後の共同親権は認められず、単独親権、すなわち、父親か母親どちらか一方に親権を定める必要があります。改正後の民法では離婚後も双方に親権を認める共同親権が盛り込まれたことで注目されています。
今回は、共同親権の問題点やメリットを中心として解説していきます。
共同親権とは
共同親権とは、父母の双方が子どもに対する親権を有する制度のことをいいます。
婚姻中は、共同親権が認められていますが、離婚後は父母のどちらか一方を親権者と定めなければなりません。そのため、離婚時において子どもの親権争いが生じるケースが多いのです。
共同親権の制度が導入されれば、子どもの親権争いの問題はなくなるように思えますが、実は、共同親権になることで生じる問題もあります。
共同親権で生じる可能性がある問題
面会拒否ができなくなる?
まず、共同親権が導入されると面会交流を拒否することは基本的にできなくなります。
そのため、配偶者からDVやモラハラ、虐待等を受けていた場合であっても、離婚後も配偶者は親権者であり続けるため、親子ともにDVやモラハラ、虐待から精神的にも逃れられないという大きな問題があります。
配偶者がDV加害者であることややモラハラ、虐待をすることが証明できれば親権喪失という手段をとることもできるという意見もありますが、どの程度の証明を要するか、そもそも証明が困難なのではないかという問題点もあるため、議論の余地があるといえるでしょう。
また、父母は離婚していますが、子どもに対する親権は双方とも有しているため、子どもに対する教育方針が異なることがあります。
このような場合、子どもの教育方針について逐一協議して決めるのか、父母どちらかの教育方針に従うか、子どもがどちらの教育方針に従えばいいのか混乱するおそれも出てきます。離婚に至った両親が子どもの教育方針でもめる事は容易に想像がつくところです。
離婚後の親権について、一番に考えなくてはならないのは、子どもの利益ですが、共同親権の制度導入が、子どもにとってベストであるかどうか考える余地はありそうです。
共同親権のメリットは?
共同親権のメリットについては、親権を有することから子育てに関わり続けるため養育費が支払われやすくなることや、面会交流がスムーズに行われやすくなる等、考えられます。
しかしながら、たとえ、共同親権の制度が導入されたとしても、必ずしも単独親権のもとで生じた問題が解決されるわけではないともいえるでしょう。
子どもに対して関心のない親は、離婚後、共同親権であるとしても養育費を払わないかもしれませんし、面会交流を行うことが子どもにとって適切なのかはケースバイケースです。日本では、家庭内の問題に対して、司法や行政が介入することを躊躇するというのが現状であり、まず、この問題を先に解決すべきではないのかという声も上がっています。
共同親権制度への期待
今までの単独親権の制度で、親権者でない親の、希薄になっていた「親」としての「意識」を、共同親権の制度を採用することで、社会的にもすこしずつ変えられるのでないかとの期待もあります。
しかしながら、果たして強制的に「共同親権」という形がとられることで、子どもに関心がなかった親の場合、子どもの親としての責任感を改めて植え付けることはできるのかは疑問です。
本来、離婚しても、親と子どもの関係は変わらず、親が子どもを気にかけて、子どもの養育をしっかりと行ってきていれば、単独親権か共同親権かという問題は起こらなかったのではないでしょうか。もっとも、共同親権の導入を求める方の多くは、「子どもに会わせてもらえない」「子どもと関わらせてくれない」という切実な訴えからです。
離婚事由はともかくとしても、親に会うのは子どもの権利ですから、親権者の一存で子どもと離婚した配偶者との面会交流を拒否するのは、子どもにとって適切な対応とはいえないでしょう。
養育費を払わない、片方の親と会わせない、等の問題が頻発しているために、根本的な法制度を変え、親としての意識を改めて認識させようという流れになってきたのだと考えられます。
改めて考える「子どもの利益」
この離婚後の親権問題において、もっとも重点を置かれる「子どもの利益」ですが、子どもの利益とは何なのでしょうか。
両親の離婚という、自分ではどうすることもできない生活環境の変化によって、強いストレスを受けているであろう子どもの精神状態をしっかりと加味し、離婚後の子どもの養育環境がより適切なものとなるように、子どもの気持ちに寄り添って親権問題も考えていかなければならないと思います。
「親が子どもに会いたいから」、「養育費をきちんと払ってもらうため」という共同親権を求める声も確かに重要なものですが、親の離婚に振り回される子どもの真実の声をしっかり聞かなくては、この親権問題の決着はつかないのではないでしょうか。