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隣地の枝を切除できる?民法改正(2023年4月1日施行)を条文とともに解説

2021年4月28日に公布され、2023年4月1日から順次施行される改正民法は、所有者不明土地の解消を目的としています。

今回は、改正の背景や具体的な変更点などを、条文を引用しながら解説します。

改正の概要

2021年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)が成立しました。

これらの法律は、所有者不明土地の発生予防利用の円滑化の両面から総合的に民事基本法制を見直すことを目指しています。

具体的には、不動産登記法の改正(相続登記や住所等の変更登記の義務化やそれに伴う負担軽減策の導入など)と相続土地国庫帰属法の制定(相続等により取得した不要な土地を手放すための制度を創設)により所有者不明土地の発生を予防し、民法の改正により所有者不明土地の利用を容易にすることが期待されます。

この記事では、民法に絞って改正内容を詳しく解説します。

改正の背景

相続登記や住所変更登記がされないことにより、日本では所有者不明土地が発生しています。2020年の国交省調査によると、所有者不明土地の割合は24%で、その原因は相続登記の未了が63%、住所変更登記の未了が33%となっています。

所有者不明土地は、利用や管理が困難であるため、公共事業や災害復興の妨げになるという問題があり、早期に解決する必要があります。

また、人口減少や高齢化、都市部への人口移動などにより、地方を中心として土地の所有意識が希薄化しているといわれます。遺産分割をしないまま相続が繰り返されると、土地共有者がねずみ算式に増加していまいます。

高齢化の進展で死亡者数が増加し、これらの問題は年々深刻化するおそれがあります。そのため、所有者不明土地問題の解決は喫緊の課題として国が認識していました。

改正民法の詳細

今回の民法改正は、大きく分けて①財政管理制度の見直し②共有制度の見直し③相続制度の見直し④相隣関係規定の見直しを内容とします。

①財政管理制度の見直し

土地や建物の管理制度を創設し、所有者不明土地や管理不全土地・建物の効率化・合理化を図ります。

従前は不在者財産管理人制度や相続財産管理人制度が設けられていましたが、人単位で財産全般を管理することから、個々の不動産の管理が不十分・非効率になってしまいます。また、所有者が判明していても管理がされていない場合は上記制度が適用されないため、土地・建物が放置され危険な状態になってしまいます。

そこで、今回の改正により土地・建物の管理制度を創設し、裁判所が選任した管理人による管理を明文で規定しました。

民法264条の2から264条の8が所有者不明土地・建物の管理制度を、民法264条の9から264の14が管理不全土地・建物の管理制度を規定しています。

民法264条の2
1項 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第4項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。

2項 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地) にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の所有者又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。

3項 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発せられた後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。

4項 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。
民法264条の9
1項 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(第3項に規定する管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。

2項 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。

3項 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。

②共有制度の見直し

共有者の過半数の合意で行える管理行為の範囲を拡大し、またその範囲に入る賃借権の設定も明確化されました。例えば、従前は変更行為につき共有者全員の同意が必要でしたが、軽微なものについては管理行為として、過半数の同意で足りるようになりました。

不明共有者がいる場合には、利用に関する共有者間の意思決定や持分の集約が困難です。さらに、相続が繰り返され、遺産分割なども行われていない場合は、多数の共有者が発生し、共有物に関して同意を集めることがますます難しくなってしまいます。

そこで、今回の改正で共有物の利用円滑化を図る仕組みを整備しました。賛否を明らかにしない共有者が要る場合でも、残りの共有者の過半数で管理に関する決定ができるようになりました(252条2項2号)。

民法252条
1項 共有物の管理に関する事項(次条第1項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。) は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

2項 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。

一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。

3項 前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

4項 共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年
二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 5年
三 建物の賃借権等 3年
四 動産の賃借権等 6箇月

5項 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

③相続制度の見直し

長期間経過後の遺産分割を見直し、遺産分割長期未了状態の解消を促進します。

所有者不明土地の中には、遺産分割がなされないまま長期間経過し、具体的相続分に関する証拠などが散逸した結果、共有状態の解消が困難になっているものがあります。

そのため、改正により相続開始から10年を一つの契機として、遺産分割を促進する仕組みを創設します。原則として、相続開始時から10年経過後は、法定相続分又は指定相続分を分割の基準とし、具体的相続分を適用しないこととなりました。(民法904条の3)

民法904条の3
前三条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

二 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

そのほかにも、遺産共有持分が含まれる共有物の分割手続の見直しや、相続財産の管理に関する規律の見直し、相続財産の精算に関する規律の見直しが行われました。

④相隣関係規定の見直し

ライフラインの設備設置権に関する規律を整備し、ライフラインの引込みを円滑化し、土地の利用を促進します。

従前はライフラインの導管等を隣地等に設置することについての根拠規定がなく、土地の利用を阻害していました。

そこで、ライフラインを自己の土地に引き込むための導管等の設備を他人の土地に設置する権利を明確化し、隣地所有者不明状態にも対応できる仕組みも整備しました。

民法213条の2第1項
土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第1項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。

また、民法233条1項に「土地の所有者は」との文言が追加されたほか、2項と3項が新設され、越境した枝を自ら切除できる権利が創設されました。

民法233条
1項 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

2項 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3項 第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。

4項 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

ほかには、隣地使用権の範囲が拡大され、以下の場合に隣地を使用することが認められました。

民法209条1項
土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第233条第3項の規定による枝の切取り

まとめ

・2021年4月28日に公布され、2023年4月1日から順次施行される改正民法は、所有者不明土地の解消を目的としています。

・今回の改正は、所有者不明土地の発生予防と利用の円滑化の両面から総合的に民事基本法制を見直すことを目指しています。

・今回の民法改正の主な内容は、①財政管理制度の見直し、②共有制度の見直し、③相続制度の見直し、④相隣関係規定の見直しに分けられます。

・今回の改正は共有制度や相隣関係など重要な部分について多くの変更点を含むため、正確に内容を把握する必要があります。

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