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カルテルとは何か?トラスト、コンツェルンとの違いは?事例と一緒にわかりやすく解説

独占禁止法で規制されているカルテル。用語自体の認知度は高いですが、正確な意味や具体的にどのようにカルテルが禁止されているかについては、あまり知られていないかもしれません。

そこで、カルテルの基本知識を踏まえた上で、独占禁止法における「不当な取引制限」の要件や違反した場合の措置などを、事例とセットでわかりやすく解説します。

カルテルとは?

カルテルとは、価格の一斉引上げなど、複数の企業が相互に連絡を取り商品の価格や数量などを共同して取り決める行為をいいます。このような行為は独占禁止法によって禁止されています。

カルテルには、価格カルテル、数量制限カルテル、取引先制限カルテルなどいくつかの種類があります。

独占禁止法とは?

独占禁止法は、競争を避けたり排除したりする行為を禁止し、公正かつ自由な競争を保護することを目的としています。正式には「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。

なお、独占禁止法の条文に「カルテル」という文言は記載されていません。

独占禁止法の概要や優越的地位の濫用についてはこちらの記事を参照してください。

記事:【独占禁止法】優越的地位の濫用とは?その要件は?独禁法の全体像や違反した場合の措置も事例とセットで解説

トラスト、コンツェルンとの違いは?

カルテルとセットで覚えられることの多いトラストやコンツェルンは、カルテルとどう違うのでしょうか。

トラストは、同じ業種の複数企業が資本的に結合する市場独占形態の一つです。日本では、独占禁止法9条~18条における企業結合規制によって禁止されています。

なお、独占禁止法上「トラスト」という文言は使用されていませんが、アメリカ合衆国においては反トラスト法によって規制されています。

トラスト、反トラスト法についてはこちらの記事を参照してください。

記事:よく聞く反トラスト法は独占禁止法とどう違うのか?

コンツェルンは、異なる業種の複数企業が資本的に結合し実質的に1つのグループとなる形態をいい、日本においては旧財閥系企業がこれに当たります。コンツェルンは、独占禁止法で禁止されていません。

独占禁止法におけるカルテルの規制

カルテルは、「不当な取引制限」として独占禁止法3条により禁止されています。

独占禁止法3条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

そして、不当な取引制限の定義は独占禁止法2条6項で規定されています。

独占禁止法2条6項
この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

例えば、ある市内の公立中学校が修学旅行を行うに際して、複数の大手旅行業者同士が宿泊費やバス代金などに関して一定の基準を設けたとします。そうすると、どの旅行業者も同じようなサービスで、同じような高い費用がかかりますが、中学校はいずれかの業者に依頼しなければ修学旅行を実行できないため、仕方なく高い費用を払うことになります。

本来、中学校(=買い手)は、出来るだけ安く魅力的なサービスを提供する旅行業者(=売り手)に依頼をしたいはずです。そのため、各旅行業者は他の業者より少しでも良いサービス、低い価格で提供できるよう努力をし、これが競争となります。しかし、旅行業者同士がカルテルにより価格やサービスを揃えてしまうと、業者は買い手にアピールするための努力をする必要がなくなり、競争が生まれなくなってしまいます。

より低価格でより良いサービスや商品が開発されるには競争が必要なのに、カルテルはこれを奪うものなので、禁止されています。

談合との関係は?

談合とは、国・地方自治体の公共事業などの入札において、事業者が事前に連絡を取り落札業者や落札価格などを決める行為をいいます。

談合もカルテルと同様、「不当な取引制限」に当たり禁止されています。

違反した場合の措置

カルテルとして独占禁止法3条に違反した場合、以下の措置が行われます。

<排除措置命令>

独占禁止法7条に基づき、公正取引委員会が違反者に対して、違反行為を除くため必要な措置を命じます。

独占禁止法7条1項
第三条又は前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。

排除措置命令の内容としては、現存する違反行為・実行手段の差止め、違法状態除去のための周知徹底、再発予防に向けた違反行為反復の禁止などがあります。

<課徴金納付命令>

独占禁止法7条の2に基づき、公正取引委員会が違反者に対して、実行期間・違反期間における売上高や購入額を基準として課徴金の納付を命じます。

独占禁止法7条の2第1項
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約であつて、商品若しくは役務の対価に係るもの又は商品若しくは役務の供給量若しくは購入量、市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、第一号から第三号までに掲げる額の合計額に百分の十を乗じて得た額及び第四号に掲げる額の合算額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。

公正取引委員会の発表によると、令和元年9月30日時点で、1事件の最高額は約398億円、1社に対する最高額は約131億円となっています。

<民事措置>

独占禁止法25条に基づき、被害者は違反者に対して損害賠償請求ができ、違反した企業は故意・過失を問わず責任を負うことになります。

独占禁止法25条
1項
第三条、第六条又は第十九条の規定に違反する行為をした事業者(第六条の規定に違反する行為をした事業者にあつては、当該国際的協定又は国際的契約において、不当な取引制限をし、又は不公正な取引方法を自ら用いた事業者に限る。)及び第八条の規定に違反する行為をした事業者団体は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずる。
2項
事業者及び事業者団体は、故意又は過失がなかつたことを証明して、前項に規定する責任を免れることができない。

<罰則>

独占禁止法89条1項1号に基づき罰則が科されます。

独占禁止法89条1項
次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
1号
第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者

違法なカルテルとして問題となった事例

上記基本知識を踏まえた上で、実際に摘発されたカルテルの例をみていきましょう。

<東芝ケミカル事件>

1987年、東芝ケミカル株式会社の担当者が、同業の会社の担当者と数回にわたって機材の販売価格の下落防止・価格の引き上げ等について情報交換や意見交換を行い、不当な取引制限に当たると判断されました。この事件は典型的なカルテルの事案といわれています。

裁判所は、カルテルを認定するに当たり明示的な合意は不要であり、相互に他の事業者の行為を認識し黙示的に認容することで足りると示しました。

なお、東芝ケミカルは2002年に京セラに買収されました。

<元詰種子カルテル事件>

1998年ごろ、種子の元詰販売業者32社が、4種類の交配種の元詰種子について基準価格を定めて販売する旨の合意をしていました。

裁判所は、多数の事業者が参加しているカルテルを認定するに当たり、各事業者はカルテルを行う事業者を完全に把握している必要はなく、複数の事業者が参加しているという概括的認識があれば足りると示しました。

<近畿地方における百貨店業者によるカルテル>

近畿地方を中心に展開する大手百貨店6社は、2015年、顧客から受け取る優待ギフト送料の金額引上げについて情報交換を行い、遅くとも平成27年9月上旬までに優待ギフト送料の額を300円程度に引き上げることを合意しました。

公正取引委員会は、上記行為が不当な取引制限に当たるとし、6社中5社に対し排除措置命令及び1億9397万円の課徴金納付命令を発しました。

まとめ

・カルテルは、事業者が相互に連絡を取り、価格や数量について共同して取り決める行為です。

・カルテルは、独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に当たり、3条で禁止されています。

・発覚した場合には、排除措置命令や高額な課徴金納付命令、刑事罰など厳しい措置が取られます。

・明示的な合意がなく、またカルテルの全体像を正確に把握していない場合でも、カルテルとして認定されるおそれがあります。

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