2020年の12月に、興味深い発表が2件ありました。一つは、写真や映像をプロ・アマ問わず発信できる「note」を運営するnoteと、出版大手の文芸春秋の資本業務提携、もう一つはテクノロジーを活かし新しい働き方を提案するシェアオフィス「GOODOFFICE」を運営するgooddaysホールディングスとオフィス家具大手のコクヨの資本業務提携です。
どちらも、新しい時代を見据えた商品やサービスを提供している成長企業と大手企業との提携で、大手企業が提携先の株式を取得するという点でも共通しています。
2つのケースにおいて、いろいろな形態がある企業間の提携でなぜ「資本業務提携」を選択したのでしょうか。また、「資本業務提携」のメリット・デメリット、そして他の提携との違いはどこにあるのでしょうか。
今回は、いろんな分野で注目されている「資本業務提携」について詳しく解説します。
業務提携 と 資本提携
資本業務提携は、いろいろある企業提携の中では最も相互の結びつきが強い形態で、「業務提携」と「資本提携」が一体となったものです。
そのために、資本業務提携を理解するには「業務提携」と「資本提携」についての概要を知っておく必要があります。
契約によって共同でビジネスを行う「業務提携」
業務提携は、事業競争力を短期間に強化するために、複数の企業が技術・人材・資金などの経営資源を提供し合うものです。
出資などの面倒な手続きは不要で契約の締結だけでスタートできるため、企業提携の中では非常に多く行われています。逆に、提携を終了させたければ解約すれば良いのでドライな提携関係とも言えるでしょう。
業務提携で中心となるのは「技術に関する提携」「販売に関する提携」「生産に関する提携」の3種類の提携です。
< 技術に関する提携 >
技術提携は、相手企業の持つ技術やノウハウを活用して新たな商品・技術・サービスなどを開発するものですが、代表的な形態には相互に技術を持ち寄る「共同研究開発契約」と一方の技術を利用する「ライセンス契約」があります。
< 生産に関する提携 >
生産提携は、製造設備を保有する相手企業に自社製品の生産を委託する「製造委託契約」が一般的で、生産工程の一部を委託する場合も含まれます。
この場合、委託する企業は設備投資が不要となり、受託する企業は工場の稼働率を高めるメリットがありますが、製造方法などの技術情報を委託先企業に開示することになるため、秘密保持義務が非常に重要となります。
< 販売に関する提携 >
販売提携は、相手企業の持つネットショップやチェーン店などの販売チャネルを活用し、自社商品の売上拡大や新規マーケットへの進出などを目指すもので、商品開発力の強い企業と販売力の強い企業の提携が理想的です。
代表的な販売提携は、販売を担当する企業が主体的に販売する「販売店契約」、商品メーカーの代理として販売する「代理店契約」、やや特殊な形態ですが、本部が加盟店に経営ノウハウとともに商品を提供する「フランチャイズ契約」などがあります。
株式の取得によってパートナーシップを強化する「資本提携」
資本提携とは、経営に影響のない範囲で相手企業に株式を譲渡し資本上において提携関係を構築する手法で、双方が相手企業の株式を持ち合う形態もその一つです。
すぐに何かを共同で行うというよりも、企業間のパートナーシップを内外に明確にし、今後の事業提携に向けた相互理解と信頼関係の構築のために行う傾向があります。そのため、資本提携は次の段階として資本業務提携やM&Aなどに発展することも少なくありません。
相手企業に株式を譲渡する方法には大きく分けて「株式譲渡」と「第三者割当増資」の2種類があります。
< 株式譲渡 >
株式譲渡は、既存株主が保有する株式を相手企業に譲渡し、株主としての地位を一部相手企業に与える手法です。既存株主と株式を取得する企業の間の資金移動なので、発行会社に資金が注入されることはありません。
< 第三者割当増資 >
第三者割当増資は、相手企業に対し新株引受権を与え増資する手法です。その結果、株式の発行会社に資金が注入されるため、本来の資本提携以外にベンチャー企業などの資金調達手段としても行われています。
業務資本提携とは
資本提携と業務提携が一体となった資本業務提携は、経営面や事業面での強い協力関係を構築することになるので、特に相手企業に株式(議決権)を与える企業にとっては重要な経営判断となります。
この提携によって企業価値は向上しさまざまなメリットが期待できる反面、一度スタートしたら簡単には後戻りできないという側面もあるので、資本業務提携のメリットとデメリットについてよく理解しておかなければなりません。
資本業務提携のメリット
大手企業のケースが多い「株式を取得する企業」と、中小ベンチャーのケースが多い「株式を譲渡する企業」では、資本業務提携で得られるメリットは微妙に異なっています。
< 株式を取得する企業の主なメリット >
- 短期間に競争力を高められる
自社で新規技術を開発したり新規分野へ参入したりするには多くの時間と費用が必要になります。それを新しい技術を持っている企業や魅力的な商品を開発している企業と提携することで短期間に実現することができます。 - 自社に欠けている技術やノウハウが吸収・利用できる
資本業務提携は相互の信頼関係がより深くなるため、重要な技術情報やノウハウに関し通常の提携に比べて多く吸収することができます。また、交渉によっては相手企業が保有する知的財産の活用も可能となります。
< 株式を譲渡する企業の主なメリット >
- 資金が調達でき、事業の成長が早まる
中小ベンチャーにとって資金調達は非常に重要なことですが、資本業務提携によって資金と同時に相手企業からの商品の受注や、新しい技術・商品の開発資金の協力が期待できます。 - 企業価値が高まる
大手企業との提携は自社の企業価値を大きく高める効果があります。例えば、本記事の冒頭で紹介したgooddaysホールディングスの株価も、コクヨとの資本業務提携を発表した翌日にはストップ高に達しています。 - 相手企業の経営資源を利用できる
大手企業が保有する研究施設・生産設備・販売チャネルなどを利用できることは、中小ベンチャーにとって単独ではできない技術開発や商品開発が可能となります。
業務資本提携のデメリット
業務資本提携の大きなデメリットは、多面的に構築した強い提携関係から生じる「提携解消の難しさ」と「経営面への影響」の2点です。
- 簡単にはできない提携の解消
資本業務提携で構築した提携関係は、経営、資金、業務、人事交流などで強い関係が出来上がっているため、解消することによる損失や企業価値の低下など様々なダメージが考えられます。そのため、提携解消後の明るい事業見通しがなければ簡単に解消することは難しいのが現状です。 - 相手企業による経営関与
株式(議決権)の割合によっては取得した企業が経営に口出しする、あるいは当該企業の競争相手とは取引しづらくなるなど、株式(議決権)を譲渡した企業にとって自由な経営ができなくなる可能性があります。
資本業務提携って実際にはどんなことするの?:まとめ
資本業務提携について「業務提携」「資本提携」「資本業務提携のメリットとデメリット」について解説してきました。大手企業と中小ベンチャーの資本業務提携の場合、双方が得られるメリットは非常に大きなものがありますが、反面リスクもあります。
時には、将来的に吸収合併や子会社化が予測されるようなケースもあるので、中小ベンチャーにおいては
- 自社の将来ヴィジョン
- 相手企業に期待するもの
- 譲渡する株式(議決権)の割合
- 業務提携の内容などについて、十分検討した上で経営判断する
ことが重要です。