犯罪収益移転防止法は、マネーロンダリング対策として制定された法律です。犯罪で得た資金を自由に使えるようにするマネーロンダリングは、手口がますます巧妙化しており、高額取引における適切な対応が求められています。この記事では、犯罪収益移転防止法がマネ―ロンダリングを防止するうえで、どのように機能しているのかについて解説をします。
マネーロンダリングとは
犯罪収益移転防止法は、犯罪による収益を防止することを目的に制定されました。この法律では、銀行などの特定事業者にマネーロンダリング対策を講じるよう求めています。ここでは、まずマネーロンダリングとは何かを押さえておきましょう。
直訳すれば「資金浄化」
マネーロンダリング(Money Laundering)は、直訳すれば「資金浄化」です。この場合の資金浄化とは、犯罪によって得た資金の出所先や真の所有者を分からなくしたうえで、公の場で自由に使えるようにすることを意味します。
金融機関を利用する
マネーロンダリングでは、金融機関を利用した手口がよく使われます。たとえば、振り込め詐欺や賭博行為で得た利益を偽名で開設した口座に入金したうえで、送金を繰り返すことで、最終的に出所を曖昧にする方法も、そのひとつです。
高額商品を利用する
マネーロンダリングは、高額商品を介する方法も用いられます。犯罪で得た収益で、不動産屋や美術品を購入して、それを転売することで、合法な商取引で得た資金として装うものです。
クレジットカードを利用する
クレジットカードを介したマネーロンダリングも少なくありません。複数の協力者からクレジットカードを借り受けることで、多額の取引を行うといった手法が用いられます。あるいは、国外の協力者にクレジットカードを渡して海外のATMから出金したり高額商品を購入したりといったことも行われています。
犯罪収益移転防止法でどうマネーロンダリングを防ぐのか
マネーロンダリングは、金融機関への入金や高額取引を介して行われます。このため、犯罪収益移転防止法では、窓口となる銀行等の機関や個人を「特定事業者」として定め、「特定取引」を行う際に次の3点の措置を実施するよう義務付けています。
- 本人確認の実施 (法4条)
- 本人確認・取引記録の作成・保存(法6条・7条)
- 疑わしい取引の届出(法9条)
犯罪収益移転防止法に定められたこうした義務が、マネーロンダリング防止にどのように活用されているのか解説していきましょう。
「特定事業者」に義務が課せられる
犯罪収益移転防止法では、マネーロンダリングに利用される可能性が高い業務に関わる機関等を「特定事業者」として、各種の義務を課しています。特定事業者には、次のような職種が指定されています。
金融機関等、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者、また限定的な取引に対して、本人確認を義務事項としている職種として、弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士などが特定事業者とされています。
「特定取引」は事前確認が必須の取引
犯罪収益移転防止法では、次のような取引を行う場合は、「特定取引」として、各種確認を要するとしています。特定取引に該当する一例として、次のようなものがあります。
- 口座開設
- 200万円を超える大口現金取引
- 10万円を超える現金送金
- 保険契約の締結
- 200万円を超える外貨の両替
- クレジットカード契約
- 宅地・建物の売買
- 会社設立の代行等
- 継続的契約において、なりすましが疑われるもの
特定取引における確認事項
取引内容が特定取引に該当する場合、「特定事業者は、顧客等について、次の各号に掲げる事項の確認を行わなければならない(第4条抜粋)」として、次の事項の確認を求めています。
(個人の場合)
- 本人特定事項……氏名、住居、生年月日の確認をします。
- 取引を行う目的
- 職業
(法人の場合)
- 名称及び本店又は主たる事務所の所在地
- 取引を行う目的
- 事業内容
- 実質的支配者の本人特定事項……実質的支配者が反社会集団等に属していないかを確認します
- 取引担当者の本人確認事項及び代理権
個人に対する本人確認方法
個人が取引相手の場合、運転免許証、個人番号カード、パスポート等の顔写真付き証明書を提示することで本人特定事項の確認をします。
健康保険被保険者証や国民年金手帳のように写真がない書類を本人確認として提示された場合は、取引関係書類を転送不要郵便物等により送付するなどの二次的確認が必要になります。
また、インターネットや郵送などの非対面取引においては、本人確認書類の写しの提示を受けたうえで、本人確認書類に記載された住所に転送不要郵便を送付すことで本人確認をします。
法人に対する本人確認方法
法人が取引相手の場合、登記事項証明書及び印鑑登録証明書の提示を求めたうえで、実際に取引を行っている担当者の本人確認書類の提示を求めます。担当者に対する本人確認書類は、上述した個人に対する本人確認方法と同じです。
またインターネットや郵送による非対面取引においては、上記証明書類を送付してもらったうえで、法人の本店または主たる事務所宛てに転送不要郵便で取引関係書類を送付します。
不動産取引における犯罪収益移転防止法の活用
犯罪収益移転防止法では、特定業者として金融機関に着目されることが多いのですが、不動産取引においては、司法書士の役割が重要になります。
不動産の売買は、所有者が遠方に居住している場合や病気の場合は代理人による契約が認められていますが、登記の名義変更においては、司法書士が必ず所有者本人に面談をして売却の意思を確認します。
この段階において、本人確認を実施するとともに、疑わしい取引の有無を確認します。
特定事業者には書類の保管義務がある
特定事業者は特定取引において入手した、本人確認記録や取引の期日・内容に関する書類を作成するとともに、それらの書類を7年間保管する義務があります。
「疑わしい取引」には届出の義務がある
犯罪収益移転防止法では、「特定事業者は、特定業務に係る取引について、当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうかを判断し、これらの疑いがあると認められる場合においては、速やかに、行政庁に届け出なければならない(第8条抜粋)」としています。
ここでいう「疑わしい取引」とは、次のようなものが該当します。
- 少額で開設された銀行口座や遠隔地の顧客の銀行口座に振込依頼が集中して発生した。
- 顧客が架空名義や他人名義で契約している疑いがある。
- 商品券等の換金性の高い商品の購入を短期間にクレジットカードで購入した。
- 宅地建物取引において、過去何らかの理由によって取引が成立しなかった顧客との取引が発生した。
このように他の顧客や一般的に行う取引と態様と比較して、著しく不自然な場合は、「疑わしい取引」として所轄行政庁に届出をします。
警察庁の資料によると、疑わしい取引の届出は、平成28年には、40万件にのぼり、このうち、預金を取り扱う金融機関からの届出が92%を占めています。
犯罪収益移転防止法とは?のまとめ
犯罪収益移転防止法は、「特定事業者」が「特定取引」において、
「①本人確認の実施
②記録の作成・保存
③疑わしい取引の届出」を義務付けた法律です。
法の構成自体はシンプルですが、実務においては、金融庁の「マネロン・テロ資金供与対策ガイドライン」に基づき各企業が作成した「リスク評価表」と「顧客受け入れ方針」を活用することで、マネーロンダリング対策として有効に機能させることができます。
また特定事業者に該当しない企業においても、自社の商品やシステムがマネーロンダリングのアイテムとして活用されないよう、適切な対策が求められます。