「会社」という言葉を聞いて、「株式会社」をイメージする人は大勢います。しかし会社法人の種類は株式会社だけではありません。今回は年間設立数が株式会社の次に多い「合同会社」をピックアップして、設立のポイントやメリット・デメリットを説明します。
合同会社と株式会社の違い
合同会社とは、2006年の会社法改正によって誕生した比較的新しい会社形態です。さっそく、合同会社と株式会社の主な特徴を簡単に比較してみましょう。
項目 | 合同会社 | 株式会社 | |
1 | 最低人数 | 1名 | 1名 |
2 | 出資金額 | 1円~ | 1円~ |
3 | 出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 |
4 | 株式の発行 | なし | あり |
5 | 最高意思決定機関 | 社員総会 | 株主総会 |
6 | 出資者と経営者 | 同一 | 同一とは限らない |
7 | 代表者の名称 | 代表社員 | 代表取締役 |
8 | 利益の分配 | 任意で決定 | 出資割合に準じる |
9 | 定款の認証 ※ | 不要 | 必要(5万円) |
10 | 登録免許税 | 6万円 | 15万円 |
※電子定款にしない場合、印紙代4万円が必要
①から③までは特に違いがありません。制度上の大きな違いは④です。名前の通り株式会社は出資を受ける際に「株式」を発行しますが、合同会社には株式という制度自体がありません。もちろん⑤の株主総会もありません。
それと関連するのが⑥です。株式会社は「所有と経営の分離」といって、出資者(株主)と経営者が分かれています。このため大企業などでは自社の株を持たない「雇われ社長」も珍しくありません。一方の合同会社はすべての出資者が経営者です。このため対外的な代表者が必要な場合は⑦のように「代表社員」を選任します。
⑧も大きな違いです。株式会社では出資比率によって発言権や利益分配が決まりますが、合同会社では原則として出資比率と利益分配がリンクしません。もちろん出資比率に応じた分配でもかまいませんが、会社や事業への貢献度に応じて任意に割合を決めることも可能です。
これから会社設立を考えている人にとって、⑨と⑩は重要な違いでしょう。定款とは「会社の憲法」のようなもので、会社の名前や仕組み、基本的なルールなどを定めたものです。もちろんどちらの会社形態にも必要ですが、作成した定款に「公証人役場での認証」が必要なのは株式会社だけです。定款の認証には時間もお金もかかります。また法務局に納める登録免許税も、合同会社と株式会社では倍以上の差があります。
このような特徴から、合同会社は主に「経営者ひとりの小さな会社」や「個人事業主の法人成り」といったケースで多く利用されているようです。
実は、あの「有名企業」も合同会社
「小さな会社」や「個人事業主の法人成り」で人気といいましたが、規模の大きな会社や有名会社の中にも、組織運営を合理化するといった理由からあえて合同会社を選ぶところがあります。意外かもしれませんがGAFA各社の日本法人も、ほとんどが合同会社です。
「グーグル合同会社」(2016年〜)
インターネット検索の最大手で、GmailやYouTubeなどのサービスを手がけるGoogleの日本法人。合同会社になる以前は株式会社でした。
「Apple Japan合同会社」(2011年〜)
iPhoneやMacで有名なAppleの日本法人です。こちらは有限会社からの組織変更です。
「アマゾンジャパン合同会社」(2016年〜)
ネット通販の最大手で、動画配信や音楽配信など幅広いITビジネスを展開するAmazonの日本法人。株式会社から合同会社になりました。
後ほど説明しますが、合同会社は株式会社と比べて迅速な意思決定が可能です。一方で資金調達手段が限定されるため、日本国内の大企業にはあまり向いていません。しかし「豊富な資金力を持つ多国籍企業」が日本法人を設立する場合は話が別です。合理的な意思決定を重視し、しかも日本国内の投資家から資本金を集める必要がない以上、株式会社ではなく合同会社を選ぶのも当然と言えるかもしれません。
ほかにも業種は変わりますが「合同会社西友」(国内のスーパーマーケットチェーン。親会社はアメリカのウォルマート)など、知名度の高い会社や歴史のある会社も合同会社として運営されています。
合同会社の設立手順
合同会社の設立はとてもシンプルです。基本的には以下の5つのステップだけなので、基本事項のイメージさえしっかりつかめていれば最短1日で会社を作ることもできます。
①基本事項(会社の名前、目的、所在地、資本金、社員の構成など)を決める ②定款を作成する
③資本金を払い込む
④会社印と登記申請書を作成する
⑤登記書類の提出する
手続きを自分で行なう場合、費用は最小で6万円+実費(印鑑の作成代やコピー代など)です。ただし紙で定款を作る(電子定款を利用しない)場合は別途印紙代かかかるため、合計10万円+実費になる点に注意が必要です。
また「シンプル」とはいっても、専門知識のない人が自力で書類を揃えるにはそれなりの手間がかかります。書類に不備があれば、修正の時間も必要です。ストレスのない会社設立を目指すのであれば、司法書士や行政書士といった専門家に依頼することも重要なポイントとなるでしょう。
合同会社のメリットとデメリット
合同会社には、主に3つのメリットがあります。
メリット①「設立が簡単」
すでに説明した通り合同会社の設立手続きはシンプルです。また株式会社と比較して設立費用も大幅に安いため、起業家や個人事業主に人気なのもうなずけます。
メリット②「意思決定が迅速」
株式会社では「株主総会」が最高意思決定機関なので、現場の経営者が自分の判断で動けないことも少なくありません。この点、合同会社では原則としてオーナー(出資者)イコール経営者なので株主総会の開催にかかる時間と手間を省くことができ、そのぶん迅速な行動が可能です。
メリット③「利益配分を任意に決定できる」
株式数の割合で利益配分する株式会社と違い、合同会社はそれぞれの貢献度や資格の有無、技術力などで利益配分を決めることができます。
一方で合同会社のデメリットとしては、次の点が指摘されています。
デメリット①「社会的な信用が低い」
2006年に誕生したばかりの合同会社は知名度が低く、「代表社員」という表現も耳慣れません。このため「取引先からなかなか信用されない」といった声も聞かれます。とはいえ合同会社だからといって、株式会社より機能が劣るわけではありません。今後合同会社の知名度が上がっていけば、このデメリットは解消されていくでしょう。
デメリット②「資金調達手段が限られる」
ここでいう資金調達手段とは、具体的には「株式の発行」です。たしかに合同会社には株式がないため新株発行による資金調達はできません。株式の上場もできないため、ベンチャーキャピタルからの資金調達も不可能です。しかし株式会社でも、すべての企業がこうした資金調達をできるわけではない(中小企業などが新株を発行したりベンチャーキャピタルを利用するケースはあまりない)ので、これも大したデメリットとはいえません。
合同会社を上手に活用する
今回は合同会社の特徴や設立の流れ、留意するポイント、合同会社のメリットやデメリットについて説明しました。合同会社は比較的新しい制度ですが、メリットを上手に生かせばスムーズな会社運営も可能です。これから会社を設立するという方は、ぜひ検討してみてください!